Roland αJunoのDCO(3)

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前回はマスタークロックからピッチ信号を生成する仕組みについて書きました。
ここで生成されるのはタイマーで生成された矩形波ですが、Junoシリーズでは、この矩形波の周波数に従って鋸波を生成し、さらにそこからPWM制御された矩形波を生成しています。

鋸波の生成については、前々回で基本的な仕組みを書きました。
コンデンサを放電させるタイミングを制御することによって、周波数を制御しています。

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この仕組みを実現した実際の回路は、Juno-60のメンテナンスマニュアルでは以下の図ように示されています。
プログラマブル・タイマ8253で生成された矩形波は微分回路を通り、パルス波に変換されます。
パルス波はトランジスタに入力され、コンデンサC7を放電させます。
コンデンサC7はオペアンプと共に積分回路を構成しており、トランジスタのコレクタ・エミッタ間が導通していないときは一定の電流でC7が充電されます。
このため、パルス波が来るまで、オペアンプの出力電圧がだんだん上がっていきます。
(実際には、オペアンプは反転入力なので、波形は0Vから負電圧方向へ電圧が増加していきます。)

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この際、C7を充電する電流は発生したい周波数に応じて調節する必要があります。
C7を充電する速度がいつも同じだと、高い周波数ではC7があまり充電されていないのに放電させることになり、結果的に生成される鋸波の音量が小さくなってしまうからです。

そうならないように、鋸波の電圧上昇の傾きを制御しているのが、上の図で緑のオペアンプから出力されている制御電圧(CV)信号です。
緑のオペアンプは、入力された電圧を記憶するホールド回路となっています。
ホールド回路が必要な理由は、6ch分の制御電圧を時系列で生成しているためです。

MIDIでは、ノートナンバー0(C -1)からノートナンバー127(G9)まで指定可能ですが、対応する波の周期は次の図に示すように122msecから79.3μsecまで変化することになります。(実際には、さらにピッチベンダなどにも対応しなければなりません。)
制御電圧は、この周期でちょうど同じ高さの波が生成できるような値である必要があります。

wavegen6.png

次の図がJuno-60での制御電圧生成部のブロック図です。
右端がホールド回路で、4051によるデマルチプレクサが時系列に生成されたCV信号を6個の音源へ振り分けています。
制御電圧を決めているのは図左端の7bit D/Aコンバータですが、ここではCVを等差級数的に生成し、Anti-Log Ampで等比級数的な電圧変化に直してるようです。
楽器の音程は等比級数(1オクターブあたり2倍)になりますので、制御電圧も等比級数的になるからです。

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ちなみにD/Aが7bitということは、0~127の範囲で変わるということですから、おそらく鍵盤のキー1つ1つに対応してCVが生成されているということだと思います。
ピッチベンダ等で周波数がスイープするときには7bitの解像度では不十分なはずですが、その補正はAnti-Log Ampにあるもう1つの入力で行っているようです。

Juno-60の後継であるJuno-106では、D/Aは12bitになっています。
前回書いたように、Juno-106ではマスターオシレータの周波数は固定され、ピッチベンドやLFOの情報もタイマーの設定値に反映されますが、同様に波形生成のCVについても、全てCPUから指定するようになっています。
回路図を見ると、次の図のような構成になっているようです。

wavegen5.png

D/Aは12bitとなっており、4050でバッファした後、R-2Rラダー型のDAコンバータで電圧を生成します。
その出力は4051によって6チャンネル分の音源部へ分配されるほか、サブオシレータのレベルの指定やVCF、VCAなどのレベル指定にも使われています。
分配された信号はJuno-60同様にホールド回路で保持されます。

また、前回書いたとおり、Juno-106ではDCO RANGEの指定により1オクターブ上・下の音を生成することができますので、DCO RANGEの設定を反映させるために4052で3種類の抵抗を切り替えています。

鋸波の生成については以上ですが、次回はPWM、サブオシレータ、ノイズ生成の回路を紹介します。

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