Roland αJunoのDCO(4)

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JunoシリーズのDCOは、マスターオシレータの信号から鋸波を、さらに鋸波から矩形波を生成します。
鋸波と矩形波は同時に用いることができるので、1DCOながら比較的複雑な波形をつくることができます。

今回は鋸波以外の波形の生成方法を見てみます。
次の図はJuno-60のメンテナンスマニュアルに掲載されている矩形波生成の解説です。
他のシンセサイザ(山下シンセとか)でも使われている手法で、鋸波や三角波と、パルス幅を指定する電圧をコンパレータ(水色の部分)に入力して比較するというものです。

wavegen2.png

PWM制御のための信号はスライダやLFOで制御します。
Juno-6ではLFO・スライダ・エンベロープから選択するようになっていたようです。
Juno-60は音色をメモリできるようになったため、設定値をいったんA/DでCPUに取り込み、D/Aで制御信号を生成しています。

Juno-106も同様にD/AでPWMの値を生成しています。
このとき用いられるDAコンバータは、前回紹介したDCOの鋸波用CV信号を生成していたDAコンバータを時分割で共用しています。

次に、サブオシレータの信号生成を見てみます。
サブオシレータは、メインのオシレータより1オクターブ低い音を生成して、低音の厚みを増す働きがあります。
Junoシリーズのサブオシレータは矩形波のみで、鋸波はありません。
生成メカニズムも比較的単純で、Juno-6/Juno-60/Juno-106では8253で生成された矩形波をフリップフロップで1/2に分周するだけです。
以下がその部分の回路です。
wavegen4.png

Juno-106では、これまで見てきた鋸波、PWMつき矩形波、サブオシレータの3つの波形生成をカスタムチップ(MC5534A)に納めています。
ワンチップで2チャンネル分が入っていますので、1台のJuno-106に3つのMC5534Aが入っています。

mc5534a.png

これはASICではなく、専用基板上に表面実装したモジュールをプラスチックでモールドしたものです。コストダウンのためというより、小型化のためかもしれません。
海外では、互換チップも作られています。

D5534A JUNO-106 MC5534A WAVE GENERATOR IC REPLACEMENT

最後に、ノイズジェネレータを見てみます。
ノイズジェネレータはチャンネルごとにあるのではなく、共通のノイズジェネレータの信号が各チャネルにミックスされています。
次の図はJuno-60の回路図です。
図で右側からピンクのラインで入力されているのがノイズ信号です。

juno60dco.png

Juno-106でも、同様にノイズ信号はMC5534Aの出力(1つ前の図の14番ピン)とミックスされているだけです。

このノイズ信号を生成するノイズジェネレータですが、次の図の上がJuno-60、下がJuno-106のノイズジェネレータです。
見て分かるようにほぼ全く同一の回路です。

juno60noise.png
juno106noise.png

方式自体は一般的なもので、トランジスタ(2SC945)のベース・エミッタ間にに逆電圧をかけて降伏させ、発生したノイズをOTAで増幅しています。
増幅に「BA662」というチップが用いられていますが、これはローランドの製品に数多く用いられているローランドのオリジナルのチップだそうです。
これも、海外では互換品が作られています。

BA662 Clone | Open Music Labs

これで基本的な波形生成は終わりなのですが、実はαJunoには、αJunoだけの特有の波形があります。
残念ながらαJunoのDCOはチップ化されているため、内部は推測するしかありませんが、次回はαJunoのDCOについて考えてみます。

Roland αJunoのDCO(3)

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前回はマスタークロックからピッチ信号を生成する仕組みについて書きました。
ここで生成されるのはタイマーで生成された矩形波ですが、Junoシリーズでは、この矩形波の周波数に従って鋸波を生成し、さらにそこからPWM制御された矩形波を生成しています。

鋸波の生成については、前々回で基本的な仕組みを書きました。
コンデンサを放電させるタイミングを制御することによって、周波数を制御しています。

juno-dco.png

この仕組みを実現した実際の回路は、Juno-60のメンテナンスマニュアルでは以下の図ように示されています。
プログラマブル・タイマ8253で生成された矩形波は微分回路を通り、パルス波に変換されます。
パルス波はトランジスタに入力され、コンデンサC7を放電させます。
コンデンサC7はオペアンプと共に積分回路を構成しており、トランジスタのコレクタ・エミッタ間が導通していないときは一定の電流でC7が充電されます。
このため、パルス波が来るまで、オペアンプの出力電圧がだんだん上がっていきます。
(実際には、オペアンプは反転入力なので、波形は0Vから負電圧方向へ電圧が増加していきます。)

wavegen1.png

この際、C7を充電する電流は発生したい周波数に応じて調節する必要があります。
C7を充電する速度がいつも同じだと、高い周波数ではC7があまり充電されていないのに放電させることになり、結果的に生成される鋸波の音量が小さくなってしまうからです。

そうならないように、鋸波の電圧上昇の傾きを制御しているのが、上の図で緑のオペアンプから出力されている制御電圧(CV)信号です。
緑のオペアンプは、入力された電圧を記憶するホールド回路となっています。
ホールド回路が必要な理由は、6ch分の制御電圧を時系列で生成しているためです。

MIDIでは、ノートナンバー0(C -1)からノートナンバー127(G9)まで指定可能ですが、対応する波の周期は次の図に示すように122msecから79.3μsecまで変化することになります。(実際には、さらにピッチベンダなどにも対応しなければなりません。)
制御電圧は、この周期でちょうど同じ高さの波が生成できるような値である必要があります。

wavegen6.png

次の図がJuno-60での制御電圧生成部のブロック図です。
右端がホールド回路で、4051によるデマルチプレクサが時系列に生成されたCV信号を6個の音源へ振り分けています。
制御電圧を決めているのは図左端の7bit D/Aコンバータですが、ここではCVを等差級数的に生成し、Anti-Log Ampで等比級数的な電圧変化に直してるようです。
楽器の音程は等比級数(1オクターブあたり2倍)になりますので、制御電圧も等比級数的になるからです。

wavegen3.png

ちなみにD/Aが7bitということは、0~127の範囲で変わるということですから、おそらく鍵盤のキー1つ1つに対応してCVが生成されているということだと思います。
ピッチベンダ等で周波数がスイープするときには7bitの解像度では不十分なはずですが、その補正はAnti-Log Ampにあるもう1つの入力で行っているようです。

Juno-60の後継であるJuno-106では、D/Aは12bitになっています。
前回書いたように、Juno-106ではマスターオシレータの周波数は固定され、ピッチベンドやLFOの情報もタイマーの設定値に反映されますが、同様に波形生成のCVについても、全てCPUから指定するようになっています。
回路図を見ると、次の図のような構成になっているようです。

wavegen5.png

D/Aは12bitとなっており、4050でバッファした後、R-2Rラダー型のDAコンバータで電圧を生成します。
その出力は4051によって6チャンネル分の音源部へ分配されるほか、サブオシレータのレベルの指定やVCF、VCAなどのレベル指定にも使われています。
分配された信号はJuno-60同様にホールド回路で保持されます。

また、前回書いたとおり、Juno-106ではDCO RANGEの指定により1オクターブ上・下の音を生成することができますので、DCO RANGEの設定を反映させるために4052で3種類の抵抗を切り替えています。

鋸波の生成については以上ですが、次回はPWM、サブオシレータ、ノイズ生成の回路を紹介します。

Roland αJunoのDCO(2)

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前回、DCOはマスタークロックをカウンタでカウントして希望の周波数の信号を生成していることを書きました。
マスタークロックの生成方法やカウンタ周辺の回路は、Junoシリーズの中でも変遷しています。

Juno-6からJuno-106までは、8253というプログラマブル・タイマICが用いられています。
これは16ビットのカウンタですので、入力クロックを最大65536分の1まで分周できます。
1つの8253に3つのカウンタが入っており、Junoシリーズは6音ポリなので、8253を2つ使って6つのカウンタで6つの周波数を生成しています。
αJunoでは8253は使われておらず、DCOチップにすべて集約されています。

デジタル制御のオシレーターを採用したのはJUNOシリーズが最初で、その肝の部分で使ったパーツがNECのμPD8253というチップなんです。実はそのチップを使った製品はJUNOが最初ではなく、正確にはその前のEP-09(註:エレクトリック・ピアノ)で初めて使ってみたんですよ。それで上手くいったので、シンセサイザーでも使うことにしたと。

Roland – Roland Boutique 製品開発ストーリー #2

Juno-6/Juno-60の8253周辺の回路図です。
この頃は回路図もまだ手書きだったんですね。
8253のOUT1~OUT3からCH1~CH3のための信号が出力されています。

juno60-8253.png

左のほうに「1.902MHz」という記載がありますが、これがマスタークロックの周波数です。
メンテナンスマニュアルのP14の記載によると、マスタークロックの周波数は可変になっていて、

・ピッチベンダ
・LFO
・チューニング

の値を電圧で与えることによって1MHz~3.5MHzまで変動するようになっているそうです。
クロックを生成する発振回路はアナログで、可変容量ダイオード(バリキャップ)を使った、電圧で周波数を制御できる発振回路になっています。

マニュアルには、ピッチベンダやLFOがゼロ、チューニングが442Hzのときの例として、
「マスターオシレータが1902810Hz、カウンタの設定値が4305であるとすると、442Hzの矩形波が生成される」
と記載されています。つまり 1902810 / 4305 = 442 というわけです。

続くJuno-106では、発振回路が様変わりします。
下図は発振回路の周辺の回路図です。
水晶発振子が使われており、周波数は8MHz固定になります。
そして、その出力は4ビットカウンタ40H161で分周されてから8253へ送られます。

juno106-clock.png

この4ビットカウンタの設定値は、Juno106のDCO RANGEのパラメータで制御されると思われます。
このパラメータの16’、8’、4’という表現はJuno以外ではあまり一般的ではないかもしれませんが、8’(8フィート)が標準設定で、4’に設定すると1オクターブ高い音、16’にすると1オクターブ低い音が出力されます。

juno106-range.jpg

先ほどの回路図では、40H161のAがL、DがHになっていますので、設定値は1XX0になります。
つまり、設定可能な値は8(1000)、10(1010)、12(1100)、14(1110)となりますが、カウンタは4bitアップカウンタですので、設定値からカウントアップしていって16になったときにパルスが出力されます。
従ってそれぞれの設定値の場合の分周率は1/8、1/6、1/4、1/2ということになります。
DCO設定が16’のとき1/8、8’のとき1/4、4’のとき1/2に分周されるとすると、8253への入力は1MHz、2MHz、4MHzとなり、8’のときのマスタークロック周波数はJuno-6/60とほぼ同じ設定値になっています。

Juno-106では、マスタークロックにはピッチベンドやLFOの値が反映されません。
これらの値はA/DコンバータによってCPUへ取り込まれ、8253へ設定する値に反映されています。
ちなみにCPUは、NECオリジナルのμPD7810Gという8ビットプロセッサです。

αJunoでは8253はDCOチップへ集約されていますので、下図のような非常にシンプルな構成になっています。
クロックは12MHzになっていますが、これはCPUクロックとの共用になっています。
Juno-106でもCPUクロックは12MHzでしたが、DCO用のクロックは8MHzを別に用意していました。
こんなところもコストダウンの努力なのでしょう。

alpha-juno-clock.png

DCOチップの内部は分かりませんが、12MHzを1/3分周、1/6分周、1/12分周して4MHz、2MHz、1MHzを生成しているのではないかと思います。
ちなみに、αJunoではDCO RANGEに32’という設定も追加され、標準よりも2オクターブ低い音も出せるようになっています。なので、1/24分周した500KHzも生成しているかもしれません。

ピッチベンドやLFOはJuno-106同様、A/Dコンバータでデジタル化して、DCOでの分周カウンタの設定値へ反映されます。
αJunoのCPUは、有名な8051という8ビットCPUの強化版である8052の内蔵ROM無し版である8032です。
このCPUにはA/Dコンバータは無いので、A/Dコンバータは専用チップμPD7001Cが使われています。

というわけでようやくピッチ信号生成の説明が終わりましたが、次回は波形生成を見ていきます。