Sequential Circuits TOMの内部


1985年発売のSCI製リズムマシン「TOM」、前回電源を作成して音が出るようになりましたが、スネアのボタンがチャタリングっぽくなっていたので、そちらも修繕しました。

こちらがボタンのキャップを外したところです。

筐体は単なる穴の開いた鉄板で、その穴から基板上のキースイッチが直接頭を覗かせている構造ですので、キースイッチの周辺は埃だらけです。
どうも原因は埃だったようで、キャップを外して埃を吹き飛ばしただけで直りました。
古い装置は、こういう大雑把なところが魅力でもあります。

さてここからが本題です。
TOMのメンテナンスマニュアルには回路図が載っていましたので、これを元にTOMの内部構造を見てみました。
今回の記事はそのメモになります。

TOMはPCM方式のドラムマシンですので、基本的には中身はコンピュータです。
CPUはZ80、クロックは4MHzです。
以下がボードの全体像です。

右側、白いコネクタの上に、ラベルが貼られたチップが3つ見えます。
下の横向きになっている2つがPCMデータの入っているROM、縦向きになっている1つがZ80用のソフトウェアが入ったROMです。

Z80は縦向きのROMの左隣にあります。

その下にも大きなチップがありますが、これはSCIのカスタムチップで、PCMデータの再生を担当しています。
Z80はシーケンスデータの管理や全体の入出力の制御を行っています。

ちなみに右下の白いコネクタは、後述するPCMデータ拡張用ROMカートリッジを接続するコネクタです。

回路図からブロック図を描くと、以下のような感じになります。

ソフトウェアは16KBで、RAM領域が8KB×4 = 32KB分あります。

RAMは1つが基板に直付けされ、増設できるようにソケットが3つ用意されています。
このRAMはシーケンスデータ保存用で、バッテリでバックアップされています。
上の写真では、RAMはZ80用ROMの右側に並んでおり、RAMが1つ増設されていてソケットは2つ空いています。

MIDIインタフェースにはMC6850が使われています。
ボード上では、このチップはZ80の左隣にあります。
実際に搭載されていたのは、富士通製のセカンドソースチップMB8863Hでした。

このほか、カセットテープインタフェースやクロックインターフェースがありますが、これらの回路はロジックICで構成されていました。

次に、PCMサウンドを再生するカスタムチップ周辺です。
ブロック図は以下のような感じです。

カスタムチップがPCMデータを格納したROMのアドレスを指定すると、ROMのデータがDACへ送られます。

DACは1つしか有りません。
この1つのDACで、時分割で4チャンネル分のDA変換を行います。
アナログ値に変換されたデータはデマルチプレクサによって、4つのホールド回路へ分配されます。
従って、TOMは4音まで同時に出すことができます。

DACは回路図では「DAC86」と記載されていますが、実際に搭載されていたのはAMDのAm6070です。
データシートを見ると「DAC-76にピンレベルで上位互換」みたいなことが書かれていますので、DAC86は他社製品なのかもしれません。
ちなみにAm6070はLinnDrumでも使われていたそうです。

DACの入力データは8bitですが、PCMデータそのものではなくμLawコーデックのデータとなっています。
μLawは電話などにも使われているコーデックで、ざっくり言うと生のPCMデータの対数を取ったものです。対数なので音量が大きいときにも小さいときにも、そこそこの精度で波形を再現できます。
データシートによるとダイナミックレンジは76dB、量子化ビット数は12bit(符号付き)です。

DACのVREF入力は、アナログ信号の振幅の大きさを制御します。
つまり音量調節です。

この音量制御は、カスタムチップから4ビットの制御線が出ていて、抵抗を組み合わせて5Vを分圧するようになっています。
抵抗が1つも接続されないときはVREFが10KΩでアースに落ちますので、無音になります。
160KΩだけがつながったときは、係数は10/(10+160+1) = 0.058
全ての抵抗がつながったときは、並列接続された抵抗が1/(1/18+1/51+1/100+1/160) = 10.9KΩになりますので、係数は10/(10+1+10.9) = 0.457
となります。電圧は5Vですから、VREFは音量最大のときは2.28Vくらいになる計算です。

実際の回路図は以下のようになっています。
赤で囲った部分がDA変換、青で囲った部分が音量調節、紫で囲った部分がPCMデータのあるROMおよびカートリッジです。

なお、図の最下部にはカスタムチップからデマルチプレクサへの信号線について説明が書かれています。

these are bursts of pulses.
CH0 signal is similar, but positive-going

と書かれているようです。
間隔は「16ms」と書かれているようですが、bursts of pulsesということなので、多数のパルスが16msおきに集中して送信されるということかと思われます。

PCMデータは32KBのROM2つに納められています。
1つがバスドラ、スネア、タム1、タム2、クローズドハイハット、オープンハイハットで、もう1つがクラッシュシンバルとクラップです。

また、TOMはカートリッジでPCMデータを追加できるようになっており、そのためのアドレス空間が64KB分用意されています。

驚いたことに、現在でもTOM用のカートリッジ(新品)が販売されていました。
また、カートリッジだけでなく、内蔵サウンドを変更するためのROMも販売されています。
いずれも、サードパーティというより、個人の製品のようですが。

Bassmobile | Reverb
HKA Design : Sequential TOM Mini Cartridge
TOM Drum Info
Sequential TOM Expansion

コメント