αJunoのVCF/VCA(1)

ir3r05b.jpg

αJunoでは、VCFとVCAは「IR3R05」という1つのカスタムチップに集約されています。
roland_filter_versionsによると、このチップはαJunoのほか、JX-8P、JX-10およびMKS-80の一部のバージョンで使用されています。

これらの直前の機種であるJuno-106やJX-3Pでは、VCFはカスタムチップではなくOTA(オペレーショナルトランスコンダクタアンプ)を用いて構成されていました。
OTA自体はIR3109というローランドのカスタムチップでしたが、JX-3Pのサービスマニュアルによると4つのOTAを1チップにした比較的単純な構成です。
以下のページで、IR3109のリバースエンジニアリングについて議論されています。

MUFF WIGGLER :: View topic – reverse engineering the IR3109

また、VCAはBA6110というカスタムチップで構成されていました。
こちらの記事によると、このチップを生産していたのはRohmだったようです。
Juno-106では、VCF・VCAを80017Aという小さなモジュールに封止していましたが、内部の回路はそれ以前のJuno-6/60と同じであることが明らかになっています。

80017A VCF/VCA Teardown | Obsoletetechnology

一方、IR3R05についての情報はローランドのサービスマニュアルに少し記載されている程度で、あまり多くありません。

以前ローランドから発売された、アナログ回路の動作をエミュレートした「Roland Boutique」シリーズでも、対象はIR3109を用いたJupiter-8、Juno-106、JX-3Pの各機種です。
IR3R05を搭載した機種は、一つもエミュレートされていません。

IR3R05がIR3109のVCFをそのままワンチップにしたものであれば解りやすかったのですが、IR3109系の音とIR3R05の音は傾向が似ているとは言え、若干違っています。

IR3109系のフィルタはレゾナンスを上げていくと自己発振しますが、IR3R05は自己発振しません。
音は、私の印象としてはIR3R05系の音は若干ダークで、パッドやベースには向いていますが、リードやベル系など煌びやかな音が欲しければ、IR3109のほうが得意なように思います。

IR3R05は今は製造されておらず、eBayなどにデッドストックが出品されているのみのようです。
IR3R05を用いたユーロラックモジュールも以前販売されていましたが、現在は販売が終了しています。
これもデッドストックのIR3R05を使っていたのかもしれません。

AMSynths AM8105 VCF & VCA – Eurorack Module on ModularGrid

というわけで、IR3R05に関する技術情報はサービスマニュアルくらいしかありませんが、各機種のサービスマニュアルを見ると微妙に記載が違っています。
図に関しては、αJuno-1のマニュアルが一番良さそうでした。
ブロック図はどの機種のマニュアルにも載っているのですが、信号波形の図に、入力信号やフィルタのCVの設定が記載されているのはαJuno-1のマニュアルだけでした。

ir3r05.png

説明文に関しては情報が正確そうだったのはJX-10(Super JX)のサービスマニュアルです。
以下のように記載されています。

VCFの部分はステートバリアブルの2ポールLPFの2段で4ポール(-24dB/oct)の特性があります。

αJuno-2のマニュアルでは、

VCFの部分は-24dB/oct(-12dB/oct×2)で減衰するBPFとLPFを組み合わせた可変フィルターです。

と記載されており、「BPFとLPFを組み合わせた可変フィルター」というのが何なのか解りませんでした。
ここは、「BPFとLPFを内蔵したステートバリアブルフィルター」ということだったようです。

ステートバリアブルフィルタはHPF、BPF、LPFの3つの出力を得られるフィルタです。
独立したLPFとHPFを組み合わせてBPFを構成しているわけではありません。

低周波 状態変数型フィルタ

シンセサイザーでは比較的定番の回路だそうで、最近ではKORGのmonologueがこのタイプのフィルタを使っています。

「monologue」では、ステート・バリアブル・フィルターの変形というか、少しチューニングした回路に替えました。使っている素子はOTAで、回路自体はアナログ・シンセでは定番のものだと思います。スペック的には、12dB/octの2ポール・フィルターですね。

ICON » 製品開発ストーリー #32:コルグ monologue 〜 5色のカラバリも魅力! 3万円以下で買える100%アナログ音源のマイクロ・シンセサイザー 〜

IR3R05では、一段目のフィルタのLPF出力を二段目のフィルタの入力としているようです。
各段のBPF出力とLPF出力の波形は、C1~C4へ出力されています。HPFは出力されていません。
二段目のLPF出力はバッファを通った後、電圧/電流変換されてVCAへ入力されますが、バッファを通った直後の信号がLOADへ出力されています。

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