誰もがAIのマネージャにならなければならない

ここしばらく、Pure Dataパッチからlogue SDKのオシレータユニットを生成するWebアプリを作っていましたが、今回はかなり生成AIを援用した開発になりました。その過程で「AIを使うのって、少なくとも部分的にはマネージャ業だよね」と思ったので、その話を書いておきたいと思います。

今回の構成を書き下すと、

Pure Data(入力)
 → Webブラウザ → HTML/CSS/JavaScript
 → リバースプロキシ(nginx)
  → gunicorn → flask / redis / celery
    → hvcc / external generator / logue SDK
    → make → gcc / g++ / arm-gcc / arm-g++ / ld → zip(出力)

という感じで処理が行われています。必要な知識としては

デジタル信号処理、Python、C、elf、STM32、docker、Linux、VPS、DNS

などなどがありました。プチフルスタックという感じですね。

フルスタックというと聞こえは良いですが、実態は「何でも屋」です。ただ、「何でも屋」を支える「助っ人」として生成AIの威力は実感しました。生成AIのおかげで、今回の開発期間はおそらく少なくとも数分の1になっていると思います。

実感として、ChatGPTにしろ他の生成AIにしろ、その効果は自分専用のロボット技術者を雇うことに匹敵します。そういう意味では、OpenAIやアンソロピックは人材派遣業ならぬ人工知能派遣業なんですね。

人間の役割はAIのマネージャ

ホビイストとしては、もっとAIが進化して、全てまるっと任せられるようになるといいなあと思います。

しかし、ソフトウェア開発がお仕事であればどうでしょう? 生成AIができないことをできる人間にならないと、先行きは暗そうです。

彼らAIが現状できないこととは、

・何を実現するかを思いつくこと
・実現したいことに合わせて、生成AI(と人間)を組み合わせた体制(組織)をデザインすること
・体制や組織と同時に、それらが行うミッションを明確化して、組織のメンバに割り当てること

などです。詳細化フェーズになればなるほど、現状でもかなり生成AIが行えますので、人間は、より上流工程に集中する必要があります。

で、上に挙げたことって、実はこれまでだったらプロジェクトマネージャの仕事でした。マネージャの重要なタスクが、ゴールをサブゴールに分割し、リソースを割り当てることによって、ゴール到達可能性を高めていくことだからです。

もちろんそれだけではなくて、社内政治的な交渉やその他のあれこれ、メンタルや体調のケア、お金の計算、などなど他にもやることはありますが、生成AIを使うということは、少なくとも部分的には、プロジェクトマネージャをやるということと同義なのです。

AIはツールではない

「生成AIといったって、ツールの一種じゃないの?」と思われるかもしれません。ですが、私は生成AIはただのツールとは言い難いと思っています。

ツールは基本的に使い方が決まっていて、同じ入力に対してかならず同じ出力が得られます。期待した出力が得られないのは入力ミスかツールの機能不足です。しかし生成AIは、使い方がより汎用的かつ柔軟で、しかも入力と出力の対応が必ずしも明確ではありません。

AIを擬人化することは不要だと思いますが、その特性はツールよりも人間に似ていると思います。

とはいえ生成AIのマネジメントそのものは、人間を使うよりはるかに楽です。生成AIはメンタルを壊したりしませんし、基本的に完全なイエスマンだからです。

しかしそれでも、生成AIだけではうまくいかない状況は起こります。うまくいかないときに原因を調べたり方法を変えたり、といった、要は「部下の尻ぬぐい」的なタスクはやらなければなりません。

フルスタック不可避

人間に求められるのは、必要に応じて技術の詳細が理解でき、自分でも実行できるが、生成AIを使って(生成AIの尻ぬぐいをしながら)それを10倍100倍に加速する、ということです。

そのためには、技術のことも知らなければなりません。例えば、生成AIは「うまくいかないパターン」にはまると、「Aを直そうとしてBを提案」「Bがうまくいかない」「Bを直そうとしてAを提案」みたいな変なループに陥ることがときどきあります。そうなった時は、人間が介入せざるを得ません。そのとき、技術的知識は必要です。

また、短縮できた時間の分だけ、より幅広い分野を手掛ける必要も出てくるでしょう。けれど、その幅広い分野で尻ぬぐいができるだけの技術的知識が必要になってきます。つまり冒頭に書いた「フルスタック」です。

新入社員もマネージャに

これまでは、エンジニアの新入社員として会社に入ったら、与えられたタスクをこなすことから始めていたと思います。ですが、今後はかなり早期に「与えられたタスクをAIにやらせる」のが仕事、という形に仕事の中身をシフトせざるを得なくなるような気がします。

つまり、「部下はAIだけ」のマネージャ業が、「普通の社員」のスタートラインということです。しかも並行して幅広い分野の技術の勉強もしなければなりません。

大変ですが、これまでの新人と比べたらはるかに高い生産性を生み出せるでしょう。一方で、できる社員とできない社員との差もまた、これまでよりもはるかに大きくなることも避けられません。会社としても、人材育成プログラムを大幅に変えていく必要があるでしょうね。

マネージャ業務だけではつまらないので「この部分のコードはAIにも書けるかもしれないが、あえて自分で書きたい」というようなこともあるかもしれません。そういう判断は、ホビイストだったらOKなのですが、会社の仕事しては残念ながらNGになるかもしれませんね。コードを楽しんで書く、というのは、もしかしたら趣味でしかできない贅沢になっていくのかもしれません。

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